騙す人と騙される人




“あいつだけは殺してやる……。俺が必ず……” 
 赤頭巾は去り、誰も聞いていないはずの言葉を聞いていた者が一人いた。 
 物陰に隠れていたのはボロボロの布を纏い、手入れのされていない髪をした少女だ。 
 影に潜んで、じっとタイミングを待つ。 
 老人……浦島太郎が立ち上がるのを見て少女もまた物陰から飛び出した。 
「……そこの人、いい話がありますよ」 
 少女は言葉を選びながら、浦島に口を開いた。 
 先ほどの女と老人を会話を目の当たりにした少女は学習している。 
 『お爺さん』 
 この言葉だけは、絶対に口にしてはいけない。 
 年齢に関することは言わないほうがいいだろう。 
 それを口にしたからこそ、先ほどの女は失敗したのだ。 
「……誰だ? 何が目的か知らないが邪魔は許さん」 
 殺気立った声。 
 覚悟していても、脅かされる殺気に少女は一歩足を退いた。 
 自分は今、危険な賭けをしているのではないか。 
 そう思い始めたが、既に遅い。 
 退くに退けない状況化で、少女は更に話を進めた。 
「私のことはどうでもいいです。大切なのは……武器でしょう」 
 支給品である武器『斧』を取り出す。 
 そこにあるのは3本の斧。金、銀、そしてどこにでもある普通の斧だ。 
 支給品としてもらった斧は当然、一本だけでしかない。 
 この何故か増えた2本の斧の秘密、それをこの男にばらそうと少女は思っていた。 
「…………」 
 相変わらず鋭い眼つきのまま、浦島はこちらを睨んでいた。 
 勝負はここからだ。 
 騙すか、騙されるか。 
 少女は臆病なまま、更に話を進める。 
「これは、とある泉で増えたものです」 

 少女は語る。 
 すぐ傍の泉で落とした斧のこと。 
 すぐ傍の泉に現れた女神のこと。 
 すぐ傍の泉にあった幸運のこと。 
 ある事実を巧妙にはぐらかせて。 

「……泉に武器を落とすと女神が現れるのか?」 
「はい」 
 少女は頷きながら、やや3本の斧を強調してみせる。 
 浦島も事実かどうかを見極めようと思っていたが、少なくとも斧が3本あることは事実である。 
 開始してすぐ、と言っても過言ではない状況。 
 支給品は一人一個という点から、本当である可能性は高いだろう。 
 支給品を3本集めるには、斧持ちを三人殺すしかないのだから。 
 それをする時間がない以上、本当であるとしか思えない。 
「仮に事実であったとして、だ」 
 浦島は慎重に話を続ける。 
 この少女が何を企んでいるのか、検討がつかない。 
 そもそも、この話をして何の得があるというのか。 
「お前がそれを俺に打ち明ける理由はなんだ?」 
「……貴方には、人を減らしてもらわないとだめですから」 
 それを聞いて、浦島は納得する。 
 確かに一人で、大人数を殺していくのは得策ではない。 
 ならば、誰かを殺人鬼として仕立て上げ、誰かに任せるのは一つの手段だ。 
「俺を顎で使おうというのか、女。いいだろう、今は見逃してやる……だが、いつか後悔するぞ」 
 いずれあの乙姫という女に復讐するのは確定事項だ。 
 ならば、やれる所までやってやる。 
 どうせ堕ちるならば堕ちる所まで、だ。 
 それに……こちらが約束を守る必要など、ないのだ。 
 いざとなれば知らない振りして情報だけ貰っておけばいい。 
「……貴方に、武運を」 
 浦島はその言葉を聞きながら、言われた方角へと向かった。 
 すぐに泉とも言える池が見つかった。 
 意外とすぐ近くにあり、おそらく地図でいう1マス分も歩いていないだろう。 
「…………」 
 戸惑う。 
 本当に信じて良いものか。 
 手元にある銃はそれなりに弾丸数も揃っているものだ。 
 だが、弾丸数という制限がある以上、弾丸が増えるというのならばありがたい。 
 浦島は思い切って、銃を泉に投げ入れた。 
「貴方が落としたのは、この金の銃ですか?」 
 まだ若さを保った頃なら。 
 まだ竜宮城を知らぬ頃なら夢かと思っただろう。 
 池から女神と表現するに値する女が、姿を現した。 
 だが、まだ油断できない。 
 浦島は乙姫という、悪しき前例を知っているのだ。 
「……お前は誰だ?」 
「貴方が落としたのは、この金の銃ですか?」 
 浦島の問いを無視するように、女神は再び問いかけた。 
「……誰だと聞いている!」 
「貴方が落としたのは、この金の銃ですか?」 
 一気に、肩の力が抜けた。 
 恐らく、この女は決まった言葉以外は話さない。 
 イレギャラーとも言えるこの女は、『舞台装置』という役割でしかないのだろう。 
 舞台装置であるから決まったこと以外は仕事しない。 
 これ以上、この女に聞くのは無駄だと判断して浦島は女神の問いに答えた。 
 あのボロ服の少女によると、この問いに答えることにより武器が倍増したらしいのだ。 
「……ああ。それは俺の銃だ。だが、落としたのはそれだけじゃないはずだが」 
 これで自分の物ではない、というのでは意味がない。 
 もともと武器を増やす目的で、自分はいるのだ。 
 浦島はそう考え、返事を返した。 
 だが―――― 

「貴方のような嘘つきには用はありません」 
 女神はそう言って、池へと戻っていった。 
「!?」 
 浦島には何が起こったか分からない。 
 ただ分かったことは、 
「謀ったな、あの女……!」 
 ボロ服の少女が、わざと重要なことを言わなかったということだ。 
 真実を言わねば、武器は返してくれないし、増えることもない。 
 浦島はあのボロ服の少女と、女神たる池の精への恨みを募らせた。 

 その頃、ボロ服の少女がいた場所にいるのは一匹のたぬきだ。 
 偶然、見つけた泉の秘密。 
 その頃は呆気にとられ、正直に答えたが……。 
 嘘を吐いたらどうなるかは女神の言葉から想像できた。 
「おじいさん……もう一度、会いにいきます」 
 たぬきの決意は固い。 
 自分には化ける力と、騙す知恵で生き抜いてみせる。 
「あの老人、恨んでいるかな」 
 化けるときに、たまたま近くにいた手本となった少女には悪いな、と思いながらも。 
 相打ちになってくれるといいな、とほんの少し期待する。 
(悪いたぬきになっちゃった……) 
 罪悪感は、積もるばかりだった。 

【G-5/池】 
【浦島太郎】装備:支給品その他 
【G-5/森】 
【たぬき】装備:金の斧 銀の斧 普通の斧 支給品その他 


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