願い再び




 薄汚れた民家、囲炉裏を挟んで男女が二人。 
 どこか物憂げで静かな女とは対照的に、男の方は弁舌に喋り続けている。 

「――貴方のような、か弱いレディーが独りで居たならば 
 この傍若無人な殺戮ゲームに積極的に参加した狂人や… 
 冷血で!野蛮で!俗悪な異形の者に襲われた時、ひとたまりもなかったでしょう。 
 まるで誰かを憎むように激した表情を一転和ませると、男はさらに語り続ける。 
「でも、もう大丈夫です。貴方には、私がついている。 
 貴方の事は、このガストン命に代えても守ってみせます。 
 美しい女性を守ることはジェントルの務めであり、喜びですから」 
 自らのセリフに興奮したのか、男――ガストンは、やおら立ちあがると 
 袋の中から一振りの刀を抜き出し、凛と音がするほどに構えてみせる。 
「幸い私に支給された武器は、この見事な刀。 
 剣の腕には自信があるので、たとえ怪しいやつが現れても 
 貴方には指一本触らせる事はありません!」 
 自らの偉丈夫を誇示するように、 
 あるいは見えない仇敵に斬りつけるように、熱心に剣を振るうガストンを 
 火の灯らない囲炉裏の反対側で、ただぼんやりと眺める女。 

 ――守られなかった約束、最愛の人の裏切り、そして別れ。 
 見知らぬ男に手を引かれ、一時の避難と逃げ込んだこの寂れた家の 
 どこか懐かしい雰囲気が女――おつうの思考を悲しい思い出へと沈めていた。 

『…与平』 


 見えない野獣の胴を薙ぎ満足したガストンは 
 勝利の美酒(支給された水)を味わおうと傍らに置かれた袋の口に手を伸ばす。 
「ん?この箱はなんだ?」 
 今にも封を開けんと男の手が箱の紐にかかる様を確認し、慌てておつうは言葉を挙げる。 
「なりません!その箱は…」 
「や、や、申し訳ない。どうやら袋を間違えてしまったようです。 
 この箱は貴方の支給品ですかな?その様に恐い顔をなさらなくても。 
 ちょっと気になったから、覗いてみようと思っただけ――」 
「!」 
 ガストンの何気ない一言に、おつうの美しい顔が苦しく歪む。 
 やがて、鋭い視線だけを残し全ての表情の消えた顔を向けると 
 おつうはガストンにこう語る。 

「その箱を開けてはなりません。例えどんなことがあろうとも 
 決して中を覗かないでください…」 

 詠うように、拙い子を諭すように、あるいは、呪詛の言葉を吐くように―― 

【H-8/集落の民家】 
【ガストン@美女と野獣】 
 [装備]日本刀「ちすい」@御伽草子、支給品一式 
 [状態]健康 
【おつう@鶴の恩返し】 
 [装備]玉手箱@浦島太郎、支給品一式 
 [状態]健康 

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