Arice in Death Island




All in the golden afternoon    ものすべて 金の光の昼下がり       
Full leisurely we glide;     我ら舟こぐ ゆたゆたと 
For both our oars, with little skill, 二人の漕ぎ手は つたなくて 
By little arms are plied, か弱い腕で オールこぐ  
While little hands make vain pretence 小さな両手で でたらめに 
Our wanderings to guide 我らの遊びを 案内する 



彼女の物語の始まりはいつも“The Golden Afternoon” 
それは金の光の昼下がり。 
輝ける黄金の午後。 
やわらかな陽の光の中でまどろみ。 
お気に入りの紅茶とスコーン、チョコレート。 
一番好きなドレスを着て、一番好きな日傘を持って、 
何をしても許され、何をしても愛される幸せな夏の日々。 

至福のひととき“The Golden Afternoon”それは、すべての少女たちの夢の見る時間。 





けれど、すべての夢が少女をしあわせにするとは限らない。 
夢の中には、とびっきりの悪い夢だってあるのだから。 








「ああ、あたしったらなんてひどいところへ来てしまったのかしら!」 
アリスはひどく不安になってあたりを見回した。 
さっきまで退屈でのんきな昼下がりを過ごしていたはずのに、何故こんな場所にきてしまったのだか! 
こんな暗い、うっそうとした、今にもしげみから狼や熊が出てきて「アリス、お前を食べてしまうよ!」と恐ろしい声で言ってきそうな、森の中に! 
「ああ、あたしったら本当にばかなんだわ。ずっとお姉さんと一緒にいたらよかったのに!」 
アリスは目の前を通りがかったウサギを追って、ウサギ穴に落ちたことを思い出した。 
穴の中が思ったよりずっと深くて、どんどんどんどんどんどんどんどん落ちて、そのうち落ちてるのだか浮かんでいるのだかわからなくなって、だんだん眠くなってきて、飼い猫のダイナに「猫はコウモリを食べるの?」などと質問をしているうちに―― 
ふと気づいたら彼女はあの氷の城の大広間にいたのだった。 
もうこれはどう考えても夢としか思えなかった。 

だいたいアリスが追ったウサギは「たいへんだ!遅刻だ!」などと叫んでいたし、夢ってやつはとにかくへんてこりんなものなのだ。 
そして、夢ってやつは突然はじまるくせにいつ覚めるかもわからないという困ったもので、アリスはもうさっきから何度も何度も目覚めてしまおうと、頬をつねったり引っ張ったり鼻をつまんだりとにかく色々をしてみたのだけれど、一向に目が覚めやしないのだった。 
そして、遂にはほっぺたや鼻が痛くてたまらなくなってしまったので、あきらめて、自然に目が覚めるまではこの夢につきあうしかないのだということをさとったのだった。 

目覚めることをあきらめたアリスは冷静に(少なくとも、彼女はそのつもりで)考えてみることにした。 
「あの穴はずいぶん深くて、地球の反対側まで落ちてしまうんじゃないかと思ったけれど、違ったのね」 
アリスは城の様子を思い出しながらつぶやいた。 
彼女はかしこい少女だったので、地球が丸いことも、彼女の住んでいるイギリスの反対側に別の国があることも知っている。 
けれど、いくら地球の反対側の国だって、氷でお城ができているなんて! 
そんな話は聞いたこともなかったから、やっぱりこれは夢には違いない。違いないけれど。 


アリスはあの恐ろしい雪の女王の言葉を思い出して身ぶるいがした。 
なんてひどい夢なのだろう! 
殺し合いをするように命じられるなんて! 

「できっこないわ、そんなこと」 
夢の中の女王様が言うことなのだから、きっと逆らってはいけないのだろう。 
逆らったら、永遠に目が覚めなくなってしまうかもしれない。 
もしそんなことになったら、お父さんにもお母さんにもお姉さんにもダイナにも二度と会えなくなってしまうのだ。 
「いやよ、そんなの! 絶対にいや!」 
アリスはついに泣きだした。 
大きな瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。 
金色のまつげの下の青い瞳から白露のような涙を零すアリスの姿はたいそう可憐だったが、ここには誰もアリスを哀れんでくれる人などいなかった。 
そう、かわいそうなアリス自身の他には、誰も。 

なんてかわいそうなアリス! 

アリスはとにかく涙を拭こうと思ってポケットを探したが、いつも入れてるはずのレースのハンケチが見つからない。 
どこかに落としてしまったのか。 
それとも夢の中まで持ってこれなかったのか。 
「ふんだりけったりって言うのよ、こういうの」 
アリスはますます哀しくなって、うらみがましげに言った。 
それでもドレスのエプロンの裾で拭いたりしたらお行儀が悪いと思って、なにか涙を拭くものがないかしらと女王に持たされた袋を開けてみた。 





結論から言うと、袋の中にハンケチのようなものは何もなかった。 
そして、かわりにとんでもないものが入っていた。 
大きくて長くて真っ黒な鉄の塊。 
「これは、大砲? なのかしら?」 
アリスはびっくりして涙が止まってしまった。 
絵本で見たことのある大砲に似ているが、それにしたってあんまりへんてこりんだ。 
「まあ、名前が書いてあるわ。カール・グスタフ……? ドイツの方のお名前かしら?」 
アリスはしばらくの間、不思議な気持ちでじっとその黒い鉄の塊、84mm無反動砲カール・グスタフを見つめていた。 



かくして、黄金の午後から死の島へと突然連れてこられてしまった不運な少女、アリスの冒険は始まりを告げたのだった。 


【C-6/森の中】 
【アリス@不思議の国のアリス】 
 [装備]無反動砲(84mm無反動砲カール・グスタフ)、弾6発、支給品一式 
 [状態]健康 


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