塔の外での出会い




「どうして殺しあわなきゃいけないんです」 
 叫ぶように言ったのは、金髪の美しい少女ラプンツェルでした。その手はボウガンを握っています。 
 塔の中でいろいろなことを学んでいたラプンツェルですが、そんな恐ろしい武器を手にし、 
誰かに向けるようなことが来るなんて思ってもいないことでした。 
 けれど、支給品といって渡された袋の中からボウガンを取り出したとき、茂みを揺らしながら現れた笛吹き男は、 
やさしく微笑みながら 「殺し合いの準備はできているようだね」 と言ったのです。 
 そしてナイフを構え、ゆっくりとラプンツェルに近づこうとします。 
 それを見てもなお、ラプンツェルには殺し合いなんて、恐ろしいことはできず、叫んでいました。 
 そんなラプンツェルに問われ、笛吹き男は答えます。 
「あの女王が言っていたのを聞いていただろう。40人のうち、生き残れるのは1人だけだと。 
権力を傘にきた横暴な契約ではあるが……。従うしかないのだろうな」 
 そういって笛吹き男は肩をすくめます。 
 そんな言葉を、ラプンツェルは信じられませんでした。けれでも……。 

 (思う存分、殺し合いなさい) 

 ラプンツェルは、冷たい、とても冷たい雪の女王の言葉を思い出しました。 
 小さいころ魔女に塔に閉じ込められたラプンツェルは外の世界を知りません。 
 いつものように寝て、そして目が覚めて時に見た初めての塔の外の世界は。 
 殺しあえ、と告げられた悪夢のような世界でした。 
「そんな……」 
 じゃり。 
 ラプンツェルの体が揺れ、それをみた笛吹き男が一歩前に出ます。 
「来ないで……。来ないでぇ!」 
 一歩下がりながら、体をすくめ、思わず目をつぶったその拍子に。 
 ラプンツェルの指は引き金を引いてしまいました。 
「え……」 
 パシュ、という音に目を開いたラプンツェルが見たのは、肩に矢をうけ、きりきりと回りながら 
倒れる笛吹き男の姿でした。 
「嘘……。あたし、そんなつもりじゃ……」 
 ラプンツェルは呆然と座り込んでしまいます。 
(違う、違うの。あたし、そんなつもりじゃなかったの。人を、人を殺すなんて……) 
 賢いはずのラプンツェルもすっかり混乱し、頭の中がぐるぐると回っているようでした。 
 そんなラプンツェルに向かって。 

「きれいな髪だね。とても長くてしなやかだ」 
 そう声をかけ、ラプンツェルの髪を触る手がありました。 
 びくっ、と体を震わせながら顔をあげたラプンツェルが見たのは、苦しそうに汗を流しながらも 
微笑を絶やさない笛吹き男の姿です。 
 笛吹き男の手が、ラプンツェルの髪をかきあげます。たっぷりとした金の髪の奥に、白い首筋が見えました。 
 ラプンツェルは地面に手をついたまま、ただ震えていることしかできません 
「ごめんなさい、お婆様、ごめんなさい。もう、塔の外に出たいなんて言いません。だから……」 
「では、1つの傷に一度の報復を」 
 最後まで言い終える前に、笛吹き男のナイフがきらりと光りました。 
 そして、ラプンツェルの白い首筋も、金色の長い髪も、淡い色のドレスもすべて真っ赤に染まっていきました。

パシュ!パシュ!パシュ! 

「ふむ、これは実にいい武器だ」 
 息絶えたラプンツェルの横で、三度ボウガンの試し射ちをした後で笛吹き男が言いました。 
 木に突き立った矢を回収し、笛吹き男はラプンツェルの死体に囁きます。 
「この武器を、私の上着を交換してもらえるね」 
 そういいながら笛吹き男は上着を脱ぐと、ラプンツェルの死体に着せはじめます。 
「君にすればあまりよい取引では無いかもしれないが、許してくれたまえ。 
世の中は真っ当な取引だけは無い。このゲームも然り。 
実に嘆かわしい事実ではあるがね」 
 死体に服を着せながらつぶやく声は。 
 まるで子供に言い聞かすように、とても穏やかで優しい声でした。 

 そして笛吹き男は歩き出します。 
 40人の命で自らの命を購う取引を続けるために。 

【笛吹き男: 
 支給品:ボウガン(矢は予備を含め3本)、ナイフ :現在地 E−6 
 状態:左肩に矢傷があります】 
【ラプンツェル:死亡】 残り 41人 


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